観念して、俺のものになって
『見てご覧。あれはこれから見る間に肥え太り、あの光をすべて奪われやがて痩せ細って、最期は闇の中へ消えていく。
まるで紡ぐ言葉を側から使い捨てられる我々のようじゃあないか』
紙の上に踊る文字を追いかけ始めると、紬さんと一緒に食べた鰻の味を思い出して思わずふふっ、と笑みをこぼした。
***
「……ねえ、まひるちゃん。
時間も遅いし、そろそろ寝ようか?」
ぎしっ、という振動とともに、吐息まじりの低く甘い声で耳元で囁かれたのは突然のことだった。
驚いた私は飛び上がりそうになって耳を押さえ本を閉じる。
「なっ、え!?」
もう、集中してる時にそれをやられたら心臓に悪い!
いつの間にか、僅かに煙草の香りをさせた紬さんが隣に座っていた。
「用意しておいたものに夢中になってくれるのは嬉しいんだけど……ちょっと複雑だな」
彼は眉を寄せて難しい顔をしながら、柔らかそうな唇に指を沿わせる。
「複雑……とは?」
本を閉じて枕元の棚に戻してから紬さんを見上げると、彼はやれやれ、とでも言いたげにため息をついた。
「本に夢中になりすぎて、
ムードがなくなるってこと」
紬さんの言葉にほんの少し忘れていた今の状況を思い出し、顔を赤くした。
それを見た彼は、皮肉げに口元の黒子を持ち上げる。
「……ふうん、流石のまひるちゃんでもこれからどんなコトされるかは分かるんだ?」
その刺のある物言いになんだかムッとして、唇を尖らせ紬さんを睨んだ。
「馬鹿にしないでください!
わ、私だって男性経験の一度や二度くらい!」