観念して、俺のものになって
カフェオレ
覚悟して、俺に愛されていて
紬side
コーヒー好きが高じて、いつか自分の店を開きたいと思い早数年。
時間は掛かったけど、念願のカフェをオープンすることができた。
不思議なことに、客足が少なくなる夕方頃に来店するのは常連客が多い。
エスプレッソマシンのスチーム音、コーヒーカップがソーサーにぶつかる音、お客さん達の話し声。
様々な音が渦巻く中、控えめにドアベルを鳴らして入ってきた女性を見た瞬間……時が止まったように感じた。
その子はずっと、ずっと会いたいと思っていた人だったんだ。
髪が伸びて大人っぽくなっていたけど、間違いない。
芦屋まひる……きみを忘れたことは一度もないよ。
彼女自ら俺の店に来て、再会を果たせるなんて夢みたいだな。
嬉しさで胸がいっぱいになり、目が合った彼女に向かって一言呟いた。
『⋯⋯また逢えたね』
***
「てんちょーさんって、カノジョいるんですかぁ〜?」
俺がレジで接客していると、連絡先を渡して受け取るまで帰らないとごねたり、お釣りを渡す時に手を握って離さない面倒な客がたまにいる。
目の前の女もそのうちの1人のようで。
何回目かも忘れた煩わしい問いに、俺は口角を持ち上げて少し首を傾げた。
獲物を見つけ舌舐めずりする雌猫みたいな、若い女の不躾な視線が俺の神経を逆撫でする。
でも、俺の機嫌を損ねた女はそれに気がつかない様子で上目遣いにこちらを見つめた。
「……仕事中はいませんね」
やんわりと肯定すると、大抵の客は諦める。
なのに、女は食い下がって来た。
「ええ〜、じゃあお店にいる間はフリーってことですかぁ?ワタシ、狙っちゃおうかなあ」
うふっ、と笑いかけてきた女に対し舌打ちしそうになって、それを押さえ込むために笑みを深める。
女はそれをどう捉えたのか、頬を染めながら俺を見上げて来た。
ああ、イライラする。
そんなことどうでもいいから、会計済ませたんだしさっさと帰ってくれないかな。
思わず口にしかけた時だった。