観念して、俺のものになって
「……あの、すみません。お会計終わったなら、譲ってもらってもいいですか?私の後ろにも待ってる方がいるので」
厄介な女性客の後ろから声を掛けたのは、まひるちゃんだった。
薄い赤銅色のブラウスに青色のパンツを履いた、いつもの通勤服でここへ本を読みにくる常連客だ。
有難いことに、俺の淹れるコーヒーを気に入ったくれているようで誇らしく思うよ。
先ほどまでの猫撫で声をどこへやったのか、女は彼女に向かってキッと眉を吊り上げ、鋭く睨みつけて大声を上げた。
「何よ、見てわからないの!?
大事な話をしてるのよ!」
それに怯むかと思ったまひるちゃんは意外にも、驚いたという顔をしながら言い返す。
「あ、そうですか?私には店長さんを困らせているようにしか見えなかったんですが」
本気で恍けているのか、皮肉っているのか迷うような答えに列の先頭の女はぐっと黙り込み、悔しそうに店を出ていった。
へぇ、大人しい子だと思っていたけど度胸あるんだな。ますます気に入った。
思わぬ方向から出された助け舟に、俺は思わず頬を緩める。
痛快な展開に噴き出しそうになるのを堪えつつ、まひるちゃんのお会計を済ませた。