観念して、俺のものになって
え、俺の渾身の笑顔が効いてない……だと?
今までそんなことはなかったから、自信があっただけに拍子抜けしてしまう。
しかも、彼女が俺に対して向けている微笑みは他の女たちから向けられる、俺に気があるようなものではなくて、ご近所さんに挨拶をするような形式上の笑顔だった。
面白くないな。
舌打ちしそうになるのを堪えながら、店を去っていく彼女を見送り次のお客さんの会計をする。
……そうだ。恋は障害がある方が燃えるって言うし、焦らなくてもこれからじわじわと墜としていけばいい。
当然このままじゃ終われない。
今度来た時には、絶対に俺に見惚れさせてやる。
そう心に誓って、俺は何食わぬ顔でレジ操作をこなした。
「チッ」
まひるちゃんからオーダーされたブルーマウンテンを淹れながら、俺はまた舌打ちをする。
あれから、一か月が経とうとしていた。
何度も笑いかけているというのに、あの子はこの俺の笑顔を毎回スルーする(読書に夢中で自分の世界に入っている)。
少しくらいこっちを見て、照れてくれてもいいんじゃないか?
その音に顔をしかめたのは、カフェを開業する前の店から一緒に働いているバイトのユミちゃんだった。
「店長……いい加減その舌打ちするの、やめたほうがいいですよ」
「仕方ないだろう?またあの子、俺の顔を一切見なかったんだから」
「ほんっと店長って……」
「なに?」
「いえ、なんでもないです」