観念して、俺のものになって
ユミちゃんは大きくため息をついて腰に手を当てる。
カフェを経営したいと思い始めたのは、学生時代だった。
親のことで悩んでいた時に、ふらっと立ち寄った個人経営の喫茶店の珈琲にどハマりしたんだ。
珈琲を飲んでいる時間だけは、つらいことや嫌なことを忘れることができる。
いつか、俺も美味しい珈琲を淹れるようになりたいと思うようになった。でも、一度その夢は諦めかけた。
その喫茶店で働きたかったけど、過干渉してくる親からはバイト禁止されていたから。
その上、カフェを開きたいだなんて夢は絶対反対される未来しか見えない。
俺には叶わないな、と思い込んでいた。
けれど、人生って何が起きるか分からないもので。色々あって親の干渉がなくなり、晴れて自由の身になれた。
これはもう、再び夢を追いかけるしかない。
俺は喫茶店を営む夫婦に頭を下げ、珈琲の淹れ方から、店の運営まで様々なことをそこで勉強させてもらえた。
で、夫婦の娘がユミちゃんでバイト仲間だったという訳。
初めて会った時は、確か高校1年って言ってたなぁ。
この子は……うまく言えないけれど、なんとなくどこか俺と似てたよ。
ユミちゃんはいつでもニコニコしているものの、その中に誰にも許さない一線がある娘だ。
スタッフたちの中には、付き合いが長い俺たちが付き合っているのではないか、そう思っている人もいたらしいけど。
僕も、彼女もどこか自分と似ているお互いのことを、最後の最後では受け入れられないだろうということを知っていた。
だからだろうか。
ユミちゃんは、俺がまひるちゃんに対して毎回とびきりの笑顔を向けていることに、一番最初に気がついた。
そんな彼女はやれやれ、とでも言いたげに首を振ってみせる。
「店長、一応念のために言っておきますけど……あのお客様、気が弱そうなので突然上から目線で話しかけたり、ましてや笑顔で圧かけたりしちゃダメですからね?」
気が弱い?
俺の笑顔に毎回気づきもしないあの子が?
気が弱い子っていうのは、常に人の顔色を伺うような子のことじゃないんだろうか。