観念して、俺のものになって


ユミちゃんの言葉に、俺はコーヒーを抽出している途中のサイフォンを眺めながら眉を寄せた。

でも、あの子に助け舟を出された状況をユミちゃんに懇切丁寧に話す気もない。


そんなことをユミちゃんが知ったら、『あの傍若無人な店長が!!』とか言って絶対に面白がって、スタッフ全員に大袈裟に話すに違いないね。



「それに、もし声をかけるとしたら『お店に来る度ずっと見てました』とかもやめた方がいいですよ?

どんなに顔がよくてもフツーの女性なら絶対ヤバイやつ認定されますから」

俺はユミちゃんの言葉を吟味するように、自分の中で反芻した。

……確かに「ずっと見てました」と告白してくるのは思い込みが激しい、面倒な女が多かった気がする。

それに俺みたいなイケメンが話しかけたら、警戒心が強い子猫みたいな子は尻尾を巻いて逃げ出してしまうだろう。


もし話しかけるなら……そうだな、絶対に逃げようがない状況を作るしかない。


俺は顔を上げ、店の片隅でひっそりと本を読み続けているまひるちゃんに視線を向けた。

温かい色の白色灯に照らされた煉瓦造りの壁。

壁際の席に座り顔を俯かせている彼女は、たまに落ちてくる髪を耳にかけながら静かに文庫本の頁ページをめくる。


じっと彼女を見つめていると、
静謐な空気に飲み込まれて。

カフェの喧騒を一瞬忘れてしまいそうだった。


「……店長?もう、店長!!」


ユミちゃんに声をかけられてハッとした。

「な、なに?」


後ろを振り向くと、彼女は両手を腰に当て頬を栗鼠りすのように膨らませている。

「ほんと、どうしちゃったんですか?
しっかりしてくださいよ〜!」

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