観念して、俺のものになって
……彼女も俺と同じことを思ってくれていたんだ。
まひるちゃんの笑顔につられて、俺も頬が緩む。
こだわりの強い自慢の珈琲をそんな風に褒められて、嬉しくない訳がないよ。
流石俺が唯一惚れた女性、ってとこかな。
でも、毎日は出費が痛いだろうから無理しないで。
「じゃあ、ブルーマウンテンでお願いします」
「畏まりました」
グアテマラ産の豆の深く甘いコクをより引き出すために、一番高いあの珈琲だけはサイフォン式で抽出している。
注文を受けた俺は休憩から戻ってきたユミちゃんにレジを任せ、珈琲の準備を始めた。
いつも店の片隅で本を読んでいる彼女は、今日に限って珈琲を淹れようとする俺の方を興味深そうに見ている。
先ほど見つめたあの明るい茶色の瞳が今こちらを向いている、そう考えるだけでなんだか妙な気分になった。
……あんなに彼女は、俺に興味を持っていない風だったのに。
今あの子の瞳に映し出されているのは文庫本なんかじゃない。
俺だけだ。
謎の優越感を抱きながら慎重に珈琲を淹れ、その香りを1秒でも長く楽しんでもらえるよう急いでまひるちゃんの元へと運ぶ。
彼女はそれを持ってきた俺を見上げキラキラと顔を輝かせて、大切そうに珈琲を受け取った。
「わぁ、ありがとうございます……!!」
すげー可愛いな……じゃなくて。
早く、早くそれを飲んで!
思わずごくんと唾を飲むと彼女は少し首を傾げ、再び俺を見上げた。
「……あ、あの?」
珈琲を渡してから、そのまままひるちゃんをぼけっと見下ろしていた自分に気がついて、慌てて作り笑いを浮かべる。
「あ、いえ……すみません」
我に帰った俺はそう言って踵を返す。そして少し離れた場所で彼女の方をちらりと振り返った。