観念して、俺のものになって


***


次の休日に向かったのは爺さんの家だ。


別に本屋で彼女が読む 『暁』(あれ)を買って読んでも良かったけど、祖母……聖さんが物語を紡いだ部屋で、あの子と同じ本を読みたいと思った。

瓦屋根のついた立派な数寄屋門をくぐり、飛び石を渡って母屋に入る。

爺さんの無駄にだだっ広いこの屋敷は、明治時代からあるらしい。


祖母が亡くなったのは俺が小学生に入る前だったと思う。だから、僕に聖さんの記憶はあまりない。

伝え聞いた話によると祖母はどうやら元々、体が弱かったらしい。


考え事をしながら屋敷の中を歩いていると、声をかけられた。


「おお、紬じゃねえか。珍しいこともあるもんだ!どうした、また誰かと喧嘩してきたのか!」

仕方なく足を止めて振り返る。

「……爺さん、ついにぼけた?
いつまで昔の話を蒸し返すつもり?」


ため息をつきながら腕を組み、書斎から廊下へと顔を覗かせた爺さんを見下ろした。

俺に見下ろされた爺さんは片眉を上げ、考えるように白い髭を触りながら首を傾げる。


「じゃあなんだ?
開いたばかりの店をもう潰しちまったのか?」


その言葉に眉をしかめ額に手をやる。

本当に爺さんの思考回路は理解できないな。

そんな危機的状況だったら、こんなに呑気にやってくるわけないだろう!


「一体どういう考え方をしたらそうなるんだ……まあいいや。聖さんの部屋にちょっと用があってね」

「……聖の?」


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