観念して、俺のものになって
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次の休日に向かったのは爺さんの家だ。
別に本屋で彼女が読む 『暁』を買って読んでも良かったけど、祖母……聖さんが物語を紡いだ部屋で、あの子と同じ本を読みたいと思った。
瓦屋根のついた立派な数寄屋門をくぐり、飛び石を渡って母屋に入る。
爺さんの無駄にだだっ広いこの屋敷は、明治時代からあるらしい。
祖母が亡くなったのは俺が小学生に入る前だったと思う。だから、僕に聖さんの記憶はあまりない。
伝え聞いた話によると祖母はどうやら元々、体が弱かったらしい。
考え事をしながら屋敷の中を歩いていると、声をかけられた。
「おお、紬じゃねえか。珍しいこともあるもんだ!どうした、また誰かと喧嘩してきたのか!」
仕方なく足を止めて振り返る。
「……爺さん、ついにぼけた?
いつまで昔の話を蒸し返すつもり?」
ため息をつきながら腕を組み、書斎から廊下へと顔を覗かせた爺さんを見下ろした。
俺に見下ろされた爺さんは片眉を上げ、考えるように白い髭を触りながら首を傾げる。
「じゃあなんだ?
開いたばかりの店をもう潰しちまったのか?」
その言葉に眉をしかめ額に手をやる。
本当に爺さんの思考回路は理解できないな。
そんな危機的状況だったら、こんなに呑気にやってくるわけないだろう!
「一体どういう考え方をしたらそうなるんだ……まあいいや。聖さんの部屋にちょっと用があってね」
「……聖の?」