観念して、俺のものになって
聖さんの部屋は夕暮れ時に西日が差し込む、純日本家屋のこの屋敷には珍しい洋室だった。
部屋の奥にある大きな掃き出し窓からは、高度を落とし始めた陽の光が見える。
その手前にあるのは色褪せた緑のコーデュロイ生地が使われた、レトロな形の3人がけソファー。
そこにはたっぷりと綿が詰まったクッションがいくつも乗っている。
聖さんは執筆に疲れると、
たまにここで横になっていたらしい。
太陽の光が届かない部屋の北。
その奥まった壁に埋め込まれているのは大きな本棚に求める本はあった。
『暁』
まひるちゃんが涙を堪えながら読んでいた本。
あの子が読んでいたのは文庫本だったが、ここにあるのは『仁科隆聖』に惚れ込んでいる爺さんが特注で作らせた、豪華な装丁のハードカバーだ。
俺はそれを手に取り、祖母が執筆の間に一息ついたであろうソファに座った。
クッションを自分の座りやすい位置へと移動させ、濃紺から黒へ変化する微妙なグラデーションが効いたカバーのかかった表紙を開く。
タイトルと著者の名前が書かれた、本扉をめくった一番初めのページは『これを読むあなたへ』という一文から始まっていた。