観念して、俺のものになって
そんな中、チャンスが訪れたのは唐突だった。
たまたま仕事上がりに一服し外へ出たその時、ちょうど店から出てきたまひるちゃんの後ろ姿が見えて。
一瞬迷ったけれど、話しかけるタイミングがあるかもしれないと気づけば彼女の姿を追っていた。
俺より頭2つ分、背の低い彼女はちょこちょこ短い足を動かして駅へと向かい、そこから下り方面の電車へ乗りこむ。
何食わぬ顔をして、俺もそれに続いた。
彼女は急行の停車駅で一旦電車から降り、そこから各停の電車へと乗り換えた。
どうにか偶然を装って話しかけられないか、そのことばかり考えていた俺はそのままその子と同じ車両に乗る。
でも、空いている席を見つけた彼女はそこに座り、また本を開いて読み始めた。
……しまった、まひるちゃんは本を読んでいる間、集中して全然周りを見たりしないのに。
俺は仕方なく腕を組み、扉近くの壁へと凭れかかった。じっと待っていると、やっと電車が動き出す。
しばらく乗り続けるのかと思った彼女は、意外にも次の駅で立ち上がった。
まさか、こんなに早く降りるなんて。
慌ててまた彼女についていく。
そうして追いかけていくうちに、ついに俺はまひるちゃんの家までついていってしまった。
アパート玄関がバタンと音を立てるのを、建物の影に隠れたまま聞いた俺は『これって、最近しつこくてうんざりしているストーカー女とやってる事が変わらないんじゃないか?』と次第に焦り始める。
ち、違う!
俺はストーカーなんかじゃない!!
アイツらと違って、危害を加えたりとか絶対しないから。
必死に自分に言い訳しながらも……どうしても好奇心が勝って、彼女が家に入る前に覗いていたポストへと近づいた。
「……芦屋」
そこに書いていたのは当たり前だが、苗字だけで。