観念して、俺のものになって
「ええ!?市東さんは営業日報に書けばいいかもしれませんけど、私はこれから出勤しないといけないので今すぐは無理ですよ!」
「そ、それもそうだな!ははは……!」
男はその場を取り繕うように笑う。
少し会話をした後、あの子は男に手を振って歩き出した。
アイツの彼女を見つめる瞳……彼女は気付いていないんだろうが、現にストーカーに追い回されている俺には分かる。
あの男は……おそらく、彼女をここで待ち構えていたんだ。
俺は立ちすくんだまま、拳を握りしめた。
絶対にありえないけれども、もしあの2人がうまくいってしまえば……まひるちゃんはもうカフェに来なくなるかもしれない。
腹の中で、どす黒い感情がぐるぐると渦を巻いた。
そんなこと、ゆるさない。
あの子は……ひびきさんが繋いだ運命は、俺のものだ!!
アイツはきっと、俺が知りたくて知りたくてたまらない、好きな食べ物や家族構成と友人関係、どんな風に笑うのかも知っているんだろう。
あの子の運命の相手は俺なのに、アイツが知っていてこの俺が知らないことがあるなんてことはあってはならない。
改札方面から彼女はこちらに向かって歩いてくる。
俺は奥歯を噛み締め、あの子に向かって歩き出した。
よし、このままよそ見をしているフリをして彼女に軽くぶつかろう。
そして、お詫びと称して夕食の約束を取り付ければ……!
そう思った時だ。
斜め前にあった柱から突然出てきた人影にどん、とぶつかられた。
「……!?」