観念して、俺のものになって
自分の乱れた呼吸を整えて、ようやく落ち着いたところで隣の彼に尋ねた。
店長は繋いでいた手を離すと、やれやれ、とでも言いたげに肩を竦める。
「君はさ……ストーカー被害に遭った事ある?」
「…………ない、ですけど」
幸運なことに、今まで恋愛のいざこざやトラブルに巻き込まれた事は1度もなかったなぁ。
私に付きまとう物好きはいないってことだ。
平凡な顔と容姿に生まれてよかったこと、
それは平和に過ごせる事かもしれないね。
店長はその言葉を聞いて腕を組み、口元へ右手だけを上げた。
まるで自分の左手で頬杖をついたような格好のまま、考え込むように自らの親指で唇をなぞる。
「僕はあの女以外にも、何度かそういう目に遭っていてね……ストーカーについては、少なくとも素人であるきみよりアイツらの思考回路を理解してると思うよ」
端正な顔立ちを鼻にかけた、嫌味ったらしい言葉を聞いて思わず眉間に皺を寄せた。
はいはい、そーでしょうね!
「……分かりました!黙って言うこと聞いていればいいんでしょう!?
それより、勢いで下り方面のホームに来ちゃったけどあなたの帰り道はこっちでいいんですか?」