観念して、俺のものになって
店長が女性客に言った言葉を思い出す。
『今から入籍しに行きます』
区役所って、まさか.....本当にしに行くの!?
ぎょっとした顔で店長を見れば、
すぐ様返事が返ってきた。
「フリだよ、フ・リ」
ああ、ストーカーの女性を諦めさせるために私たちが入籍しに行くフリをするってことか。妙に納得した。
「まぁ、俺は本当にしてもいいんだけど」
「店長さん··········?」
彼が吐露した言葉の意味を知るよりも先に、気づけば腰に手を回され、密着していて。
店長が私の前髪を片手で払い、
額にちゅっと柔らかい感触を落とした。
それがキスだと気づくのに、数秒掛かる。
「ひゃっ……!いきなり何するんですか!?」
「あ、ごめん。つい」
「つ、ついって……」
「間抜け顔が可愛くて、キスしたくなった」
甘いマスクでとんでもないことを言い出すから、一気に顔が赤く染まった。
「なっ.....可愛いからって誰にでもこーいうことしてちゃ駄目ですよ!?」
店長の突拍子もない行動に、心臓がドクドクと早鐘を打つ。
急に態度を変えて、何のつもりなんだろう。
ご機嫌取りでもしてるつもり?
とりあえず、顔が近いから離れて欲しい。
顔の熱がいつまでたってもおさまりそうにないよ。
「……っ」
不意に頬を撫でられる。
顔に熱が集まっているから、彼の手はひんやりと冷たくて気持ちいい。
その気持ちよさだけで、抵抗する気が失せてしまった。