観念して、俺のものになって
駅からそこそこ離れているこのカフェは、わかりにくい場所にあるというのにいつもお客さんでいっぱいの人気店だった。
そんなお店で突然起きたトラブル。
全員が注目しているのは、一番右端のカウンター席付近にいる2人の男女。
そこには興奮した様子のマダムと、白いシャツにグレーのエプロンをした男性店員。
私は2人を知っている。とは言っても、女性の方は何度かお店に来店してるのを見かけた程度だ。
男性はこのカフェの店長さん。黒の短髪で男らしさもありつつ、清潔感もある非常に整った顔立ちなの。
いつもにこやかに接客して、爽やかスマイルで女性客を魅了している印象かな。
名前は分かんないけど、とても優しい人だと思う。
この間はよくここに来る私に対し、お礼を述べた後気前よくケーキをサービスしてくれたから。
そういえば、初めてこのカフェに来て店長さんにメニュー表を持って来てもらった時にはめを細めてふにゃっと笑い、
『⋯⋯また逢えたね』
って呟いたのが聞こえたな。
店長さんとは初対面だから、多分人違いだと思う。
.....あ、また話が逸れちゃった。
お客さん達の非難が込もった視線を一斉に集めても気がつかないのか、声を上げた女性は金切り声をさらに大きくしていた。
「何よその態度は!あたしはあなたがいつも来てくれてありがとうって言うから、時間を見つけては声をかけてあげてるのよ!!あなただってよく知ってるでしょ?!私は常連なのよ!」
この状況から予想すると、女性はイケメン男性店員さんに気があって、営業スマイルを見て自分だけ特別扱いされてるって思い込んでしまった、とか?
うわぁ、だとしたら随分と厄介な……
“いつも来てくれてありがとう”って、多分それ常連の方にも言ってると思いますよ。
現に私も言われたことあるし。
なーんて、無関係の私が口出しできるはずもなく、黙って見守ることしかできない。