観念して、俺のものになって
訳もわからず店長と帰ることになり、
ストーカーに執拗に追いかけられて。
ほんの少しの沈黙も埋められないような他人同士が、人生を左右する書類を提出(するフリ)しようと区役所へ向かっている。
恋愛小説の主人公じゃあるまいし、
こんなの現実とは思えない。
……ほんと、店長も私もどうかしてるよ。
「……次の駅で降りるよ」
区役所のある駅名が表示された車内LED表示機を見上げ、彼が静かに口を開く。
どうしてこんなことになったのか、と考えながら黙り込んでいると、先ほど歩いていた時のようにそっと手を握られた。
最初はごつごつして少し冷たいとすら感じた店長の掌は私の熱が移ったのか……思った以上に柔らかく温かい。
この温もりで、ほんの少し不安が溶けたような気がした。
降りた駅の改札を出て、また店長と手を繋ぎ区役所まで急ぐ。