観念して、俺のものになって
……なぜ紬さんが表情を作ったと思うのかと言うと、職員さんから見えない机の下で、激しく貧乏ゆすりをしているのが見えたからだ。
ああ、イライラしてるなって。
絶対いま、紬さん心の中でめちゃくちゃ舌打ちしてるんだろうな……
私が遠い目をしていると、紬さんの言葉に心配になったのか、職員さんが書類を別の人に確認してもらう、と言い出した。
「すみません、少々お待ちください…!」
眉をひそめ立ち上がった職員さんがパーテーションの奥へと消えていったのを見て、紬さんはぼそりと呟く。
「……ハタから見たら、婚姻届を受理するために彼女が奥へ引っ込んだように見えるだろう」
なるほど、その手があったか。もしこの様子をストーカーの女性が見ていたら、多少は効果があるのかもしれない。
「ああ、私は絶対にこの人を敵に回さないようにしよう」と固く心に誓った。
しばらく引っ込んだ後、戻ってきた職員さんは自信満々に「やっぱりこれで大丈夫です!」と太鼓判を押してくれた。
「わざわざ確認してくださって本当にありがとうございます!助かりました!」
紬さんはニッコリ笑って、チェック済みの婚姻届を受け取る。
そしていつの間に手に入れていたのか、もう一枚、何も書かれていない折り畳まれた婚姻届を懐から取り出した。