観念して、俺のものになって
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区役所へ出てすぐに、紬さんはチェックしてもらった婚姻届を綺麗に折りたたみ、大切そうにポケットに入れた。
不思議に思って、声を掛けてみる。
「何でもう一枚持ってたんですか?……それにちゃんと書いた方も、もう要らないんだから破棄して貰えばよかったのに」
あくまでも“フリ”なんだから。
彼は振り返りながら唇を持ち上げ笑った。
「……あのストーカー女がどこで見てるか分からないからね。最後まで隠れて見ていたら婚姻届を提出していないことに気づかれるかもしれない」
そう言われて、私はやっと意味を理解することになる。
未記入の婚姻届は職員さんに破棄させたのは、わざとだったんだ。
提出したと思わせるための。
……なんか、すごいな。紬さんのずる賢さも、そこまでしないと諦めてくれないストーカーの執念深いとこも。
思わず舌を巻いたものの、もう一つの疑問に首を傾げる。
「でも、それなら書いた方を破棄して貰えばよかったじゃないですか」
「……まひるちゃんは本当におめでたいね。
ここにさっき何書き込んだか、忘れちゃった?職員だからって悪いことしないとは限らないんだよ。こんな個人情報の塊を全然知らない他人に破棄してもらおうなんて、甘すぎる」
私は彼のあんまりな言葉に顔を引き攣らせる。
ええ!?職員さんが個人情報を悪用する訳ないじゃない。
何をそんなに疑う必要があるの?
……セイさんって本当は性格が悪いと言うより、人間不信なのかなぁ?
紬さんは敵に回さないと決めた私は、出かかったそんな言葉をごくんと飲み込み、お口にチャックをした。