観念して、俺のものになって
ーーー遡ること、1時間前。
婚姻届を提出するフリをして、区役所を出たその後。
2人で手を繋いでしばらく歩いた後、何度も後ろを振り返ったけどあの女性の姿はなかった。
「……諦めてくれたんですかね?」
紬さんの大きな体を盾のようにして、身を隠しながら問いかけると彼はやれやれ、とでも言いたそうな呆れた目で私を見る。
「まひるちゃんは本当に分かりやすいね……そんなあからさまに『警戒してます!』って顔してたら、そりゃあ尾行しててもバレないように距離を空けると思うよ」
「えっ、そんなに分かりやすいですか!?」
しまった、完全に無意識だったよ。
私が驚いて紬さんを見上げると、口元に掌を当て楽しそうに笑っている。
普段の愛想笑いよりも、こっちの笑った顔の方が自然な感じがして断然好き。
そして、彼はふっと真顔になり、歩いてきた道を振り返った。
「……確かに、今日は諦めたみたいだね。でも、心配だから今度こそ家まで送っていくよ」
紬さんは少し安堵した表情をして、繋ぐ手を緩めずに私の家の方面へと歩き出した。
平日の静かな住宅街を歩く人はまばらだ。