観念して、俺のものになって


不思議と、もの寂しい気持ちになったのは気のせい?


すると、紬さんはジーンズの後ろポケットに手をやり、そこに入れていた財布から1枚の名刺を取り出した。

住所と店名、そして彼の名前とケータイ番号が印刷された上質な紙を差し出しながら、背の高い紬さんは私を覗き込むように視線を合わせる。


「……これ、プライベートな電話番号だから。休みが分かったら連絡して。

それと、これを見せてくれたらドリンク無料で出すようにスタッフの子たちには伝えておくから……あと念のため言うけど、これは僕の個人情報なんだから絶対に落としたり、なくしたりしないように」

ちゃんと釘を刺してきた彼を見上げて、唇を尖らせた。


「わ、わかってますよ!」


もうっ、私のこと子供か何かだと思ってる?

でも、ドリンク無料は普通に嬉しいサービスでニヤニヤしちゃう。

きっとさっきお店にいたお客さんにここまではしてないはずだから、ちょっぴり優越感に浸った。

名刺が折れ曲がったりしないよう、鞄から文庫本を出してその中へと挟み込む。



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