観念して、俺のものになって
「ご気分を害したことに関しまして、この場にて謝罪させていただきます。しかし、それ以上のことはできかねます。
それに、私には妻もおりますのでこれ以上私のことを詮索するのはご容赦いただけませんか」
全くもって悪くないのに、頭を下げて謝罪しないといけないから客商売は大変だ。
……へえ、この店長さん結婚してたんだ。
これだけ格好よかったら納得だね。
という事は、仕事中は指輪外してるんだ。
私は2人のやりとりに行儀悪く聞き耳を立てながらも、やっぱり帰ろうとケーキに手を付け始めた。
しかしその言葉は、女性にとって驚くべきことだったらしい。
「何言ってるの、あなた独身じゃない!」
「ええ、今から入籍しにいきますから」
い、今から?
ふーん、それはおめでたい。
まあ、私には関係ないけど。
非常に不本意だけど、家で読書することにしよう。
もっとゆっくり味わいたかったコーヒーを一気に飲み干し、伝票を片手に席を立ったその時だった。
―――店長さんから腕を掴まれたのは。
……えっ?