観念して、俺のものになって
他人事だと完全に油断していたよ。
チラッとマダムの様子を伺うと、一瞬ぽかんとした後すぐに私を鋭く睨みつけてくる。
ひっ、こ、怖い!
まるで蛇に睨まれた蛙のような気分になり、違いますと首を振りかけたら、笑顔なのに目だけ笑っていない店長に再び腕を握りしめられた。
店長は貼り付けたような笑顔を浮かべたまま、整った顔をそっと近づける。
『お願いだから、話合わせて』
『な、なんで私が!誤解されるじゃないですか!』
『もちろんタダでとは言わないよ。
好きなドリンク、3ヶ月無料』
『無料.....』
私は店長のセリフに、ゴクリと唾を飲む。
無料という言葉にはめっぽう弱いんだ。
このカフェの珈琲はどれも絶品だけど、1番美味しいのは時間を掛けて抽出する、豆にもこだわったブラック珈琲なの。
でも、それはたった一杯だけなのに野口さん2人とお別れして、やっとお釣りがくるような値段で。