観念して、俺のものになって
今日、紬さんは私が先生の小説が好きだと言うことを事前に知っていたからか、ファンにはたまらない最高な場所に連れてきて私を楽しませてくれた。
彼の優しさや気遣いがものすごく嬉しくて、まるで学生のように胸をときめかせる自分がなんだか気恥ずかしい。
ベンチに座ったまま、私は喫煙所の中にいる紬さんを盗み見る。
すでに煙草に火をつけた彼はわずかに顔を俯かせ、半開きになった唇に煙草を咥えていた。
煙草を長い人差し指と中指で挟み、色っぽく眉をひそめながら時折煙を吐き出す。
……まるで映画のワンシーンみたい。
つい見蕩れていると、顔を上げた紬さんと目が合った。
彼は煙草のフィルター部分を噛み、私に向かってニヤッと笑って見せる。
その笑顔にドキッとして、すぐに視線を逸らす。
ドキドキはなかなか治まってくれない……どうしちゃったの私。
あの人の彼女になる女性はきっと、幸せだろうな。
だって、彼女でもない私に対してもこんな風に優しくしてくれるんだもの。
普段、カフェで店長として働く紬さんは基本的にどんなお客さんにも丁寧で優しい。
接客業なんだから、当然と言われればまあそうなんだけど、お店全体を常に見て細かい気配りを忘れない。更には、トラブルの対応も完璧なのがすごいと思う。