観念して、俺のものになって


へっ?

紬さんが、私を好き?


「ええっと……すみません。
もう1回言ってもらえます?」


聞き間違いかもしれない、
いや、聞き間違いであって欲しい。


彼にぎゅっと手を握られ、熱っぽい視線に晒されても、それはあまりにも信じがたい言葉だ。


「きみが好きだよ」


『冗談だよ』ってニヒルな笑いを浮かべると思いきや、

目の前の男はあっさりと再び同じ言葉を紡ぐ。


滑らかでしっとりとした耳に心地のいい声で、私に愛の言葉を囁いてくる。



からかっているのではなく、どうやら本気らしい。


ずっと前からって……今までそんな素振りを1度も見たことないよね?


好きと言って微笑んだ紬さんの瞳は、私が疑う余地もない程の熱をはらんでいた。
 
つまり、目の前に居るお店に訪れた数多の女性客を虜にするくらいとびきりの美丈夫は、私のことが本当に好きだということになってしまう。


……ちょっと信じ難いなぁ。

だって、紬さんが女性客に絡まれて、突然私が『婚約者です』って巻き込まれるまでは特に親しいと言うわけではなかったんだよ。

仲良くなったのはつい最近のこと。

普通はイケメンに告白されて喜ぶべきなんだろうけど、変に勘ぐってしまう。


真摯に言葉を重ねてくれる彼に対して、返事をしなければと思う。

「えっと……あの、ごめんなさ……っ!!?」

と続くはずだった言葉は、唇に触れた柔らかなものに塞がれた。


…………え??????


本当に一瞬で離れていったのは、間違いなく紬さんの唇で。

< 92 / 200 >

この作品をシェア

pagetop