観念して、俺のものになって
「あ、あれは出せなかったはずじゃ……!」
「言っただろう?証人欄を埋めなきゃ出せないって。逆に言うと、2人以上の証人に署名と捺印して貰えればそのまま提出できるんだ」
「それで提出したんですか!?」
「うん。証人は俺の友人にお願いして、手続きしてくれたのはあの時チェックしてくれた女性でね、そういえば『おめでとうございます、と奥様にもお伝えください』って言ってたよ」
「は、はあ?
なんでそんな勝手なことしたんです!?」
彼の勝手な行動に憤りを感じて、繋いでる手を振りほどこうとしたら『まぁ、俺も話を聞いてよ』と優しく諭される。
そして、少し背を屈め、煙草の匂いが残る吐息が触れそうなほど顔を近づけてきた。
紬さんの表情は、まるで悪戯した仔猫を眺めるようで。
掌に重ねられた熱すら急に恐ろしく感じられて、私は後ずさって紬さんから距離を取る。
紬さんはそれでも微笑みを崩さなかった。
ニッコリと底の知れない笑顔を浮かべたまま、彼は私に向かって尋ねる。
「この前も聞いたけど、きみは彼氏がいるの?」
「いませんけど……」
それとこれと何の関係が?
突然信じられないようなことが起こると、人間は思考が停止するらしい。
何も考えられないまま、力なく答えると紬さんの姿をした、まるで言葉の通じない宇宙人は口元の黒子をわずかに持ち上げた。