円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 ところがだ。
 外面が完璧なためにみんな騙されているが、レイナードの中身はヘタレでポンコツなままだった。

 俺と二人っきりでいるときは「シアが」「シアが」とよくまあそんなに婚約者の話ばかりできるなというほどにデレデレの溺愛のくせに、当の本人を前にすると「好き」の一言も言えないのだ。

 お妃教育はかなり厳しいものだと聞いているため、せめてステーシアと二人のときぐらいはうんと甘やかしてやれと言ったら、何をどう勘違いしたのか甘いものを食べさせてあげればいいと思ったらしく、「シアはマカロンが大好物で…」とか言いやがるポンコツぶりを発揮してくれた。


 子供の頃から婚約者が決まっている場合は「政略結婚」であると、とらえられがちだ。
 実は子供の頃からずっと好きでした、というレイナードのような場合もあれば、俺とリリーのように本当に最初は政略的な意味合いでくっつけられたけれど、お互いを知るうちに愛情が芽生えていく場合もある。

 何にせよ表向きの形が「政略結婚」であるときは「愛情がないまま結婚させられた」と相手に勘違いされないようにきちんとお互いの気持ちを確かめておかなければいけない。
 だから俺は、高等学院に入学する前にあらためてリリーに言った。

「リリーの婚約者になれて本当によかった。好きだよ、ずっと大事にする」
 二人きりのときにそう伝えると、リリーはとても喜んでくれた。
「ありがとう。わたしもカインが大好きよ」
 柔らかい体を抱きしめて、触れるだけの口づけを交わした。

 義務感から、とかではない。
 想いがあふれるように「好きだ」と甘い言葉が漏れてしまうことも、ずっと触れていたいと思うことも当然のことだ。

 なのにあいつときたら、「恥ずかしすぎて、好きだなんて言えない」だの「おまえ許嫁とそんな破廉恥なことをしているのか!」だのと顔を真っ赤にして言うものだから、おまえ一体いくつだよと呆れてしまう。

「デビュタントのファーストダンスのときに、おまえのアドバイス通り綺麗だよって言っただけで、シアだって驚いてひっくり返りそうになったんだぞ?あのダンスの得意なシアが!そんな彼女に好きだなんて言ってみろ、俺もシアも死んでしまうかもしれないだろう?」

 死なねーよ!

 まあ、レイナードもポンコツだが、ステーシアもちょっと…いや、かなりズレたところがあるからこそ、二人の仲はいつまでたっても甘い雰囲気にならないのだ。
 王妃様が心配する気持ちもよくわかる。

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