円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 高等学院の寄宿舎の部屋割りは「厳正なる抽選のもと」に行われ、俺とレイナードが同部屋に、リリーとステーシアも同部屋になった。
 どう考えても偶然ではないはずだが、そこは目をつむっておくことにする。

 学院内で俺は、誰に対しても人懐っこく話しかける明るくお調子者のキャラを演じている。
 このほうが、いろんな情報を入手しやすいからだ。
 リリーともたまにこっそり会って情報交換し、ついでにぎゅーっと抱きしめて「充電」させてもらっている。

 ちなみに「充電」とは、リリーによればどこか遠い国の言葉で、恋人のことを抱きしめて英気を養うことをさす比喩表現らしい。


 最初のうちは順調だった。
 レイナードとステーシアはよく中庭のベンチに二人で腰かけ、おしゃべりに花を咲かせていた。
 これが続けばいずれは手を握りあったり、肩を密着させたりと、心も体も二人の距離がぐっと縮まるに違いないと確信していた。
 
 留学生のナディアがとんでもないお願いをしてくるまでは――。


「恋人のフリをしてくれないかとナディアに言われたんだ」
 唐突にレイナードにそんなことを言われて戸惑った。

「当然断ったんだろ?」
「いや、了承した」

 いやいや、断れよっ!

 ナディアには恋人がいたのだが、交際を親に反対され、不本意な相手と無理矢理婚約させられた挙句、想い人とこっそり逢引きできないように留学させられたらしい。
 その想い人というのが、なんと海賊の頭領なんだとか。

 そりゃ親としては反対するわな、って感じなのだが、ナディアは諦めきれないらしい。
 だから留学先で、婚約者が呆れて婚約破棄してくれるようなスキャンダルを起こしたい、密偵がそれを逐一母国に報告してくれるはずだ、留学先の王太子に横恋慕して婚約者から略奪したとなれば思い通りになるかもしれない、だからあなたに協力してもらいたいと懇願されたらしい。

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