円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 俺だったら絶対に首を縦には振らないし、事前に相談されていたら「絶対にやめておけ」と言ったはずだ。
 しかしお人好しで優しいレイナードはナディアに大いに同情してオッケーしてしまったのだ。

「ステーシアちゃんのことはどうするつもりだ?ちゃんと話しておくんだろ?」

「いや、密偵が誰だかわからないらしいんだ。可能性は低いけど、シアと同部屋のマーガレットがそうかもしれない。シアは嘘がつけない子だから絶対にボロが出る。残り半年ちょっとの期間だから、無事に解決したところで話せばわかってくれるはずだ、俺とシアが過ごしてきた月日に比べれば半年なんてあっという間だ。それで壊れるような絆じゃない」

 嫌な予感しかしなかった。

「俺が密偵だったらどうする?こんなに気安くネタばらしして大丈夫なのか?」
「構わない。カインが密偵なら、本国の方にナディアは王太子を誘惑する悪女だと報告して早く婚約破棄されるように仕向けてくれ」

 やれやれだ。
 というか、俺はおまえの母親の密偵なんだけどな。

 すぐに王妃様に報告すると、彼女はひと言「レイナードって、馬鹿なの?」と言い放った。

 まったくどういう育て方したらあんな人間になるんでしょうね!親の顔が見てみたいですよね!と、嫌味のひとつでも言いたいところではあったが、不敬罪に問われると困るため「同感です」とだけ答えた。

 とりあえず国王陛下にはこのことは黙っておくから、上手く解決してみせろと言われた。
「陛下に尋ねられたら、若気の至りで少しよそ見しているだけ、あなたにもそんな頃があったでしょう?って言っておくわね」
 くすくす笑う王妃様は、明らかに楽しんでらっしゃるご様子だった。


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