円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 そしてまた王妃様に呼び出された。
 ナディアの件の報告なら帰国後すぐに済ませていたから、キャンプに関することだろうかと思いつつ、いつものように羽扇子で口元を隠す王妃様と対峙した。

 レイナードのみやげである貝細工の髪飾りが、金糸のような綺麗な髪とともに揺れている。
「昨日、いつものお茶会にね、懇意にしているグリマン男爵夫人も参加されたのだけど…」

 いつものお茶会とは、王妃様が月1回ペースで催している王城のテラスで行われるお茶会で、貴族のご婦人方を招いて優雅なひとときを過ごされるわけだが、王妃様はそこで様々な流行や噂話を入手しているのだ。
 
 グリマン男爵夫人といえば、魔導具師の家門でルシードの継母だが?

「遠慮がちではあったけど、早い話が、もしもレイナードが婚約破棄することになったら、ステーシアちゃんはグリマン家が面倒を見たいという申し出だったの」 

 なるほど、グリマン兄弟にも夫人にも気に入られたというわけか。
 確かにルシードと一緒にいるときのステーシアは常に笑顔だ。
 尻に敷かれるのは間違いなさそうだが、正直とてもお似合いの二人だとも思う。
 魔導具の実験台としても、あの屈強な体は最適だ。

 だが、「もうそれでいいんじゃないっスか?」なんて、この人の前では口が裂けても言えない。殺される。

「せめて、長期休暇が終わるまで猶予をください。なんとかしてみせます」

 深々と頭を下げると、王妃様のため息が聞こえた。
「苦労をかけるわね。わたくしはレイナードの花嫁はステーシアちゃんしかいないと思っているのよ。頑張ってちょうだいね」

 あの野暮天め~~~っ!

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