円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 レイナード様を助けて、激流に落ちて流されて…今に至る。
 まさか、カモちゃんは流されちゃった?

 戻って来た男から木のコップを受け取り、お礼を言って喉を潤すと、まずカモちゃんのことを尋ねた。
「カモちゃんは!?」

「へっ?カモ?」
「わたし、ブーツ履いていませんでした?」

「ああ、ブーツなら乾かしてるぜ」
 男が焚火の近くからブーツを持ってきてくれた。

 それをひったくるように受け取って胸に抱きしめる。
「カモちゃん、ありがとう!よかった、流されてなくて!」

「カモって…それブーツだろう?」
 怪訝な顔で聞いて来る男に、このブーツはとってもお利口なカモなのだと説明すると、ますます怪訝そうな顔をされてしまった。


「目を覚ましたって?」
 背の高い黒髪の男が小屋に入って来た。

「お頭ぁ、どうもこの子、頭おかしいんじゃないですかねえ。ブーツを抱きしめて『いいカモだ』とか言ってますぜ?」

 いや、あなたの言う「いいカモ」とは、たぶん意味が違うと思うわ。

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