円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「なぜ海賊は人気者でかっこいいのに、山賊はただのゴロツキで終わってしまうのかだと?知るかっ!」

 そんなことを言いながらも、キースはわたしの話を聞くだけの度量を見せてくれている。
 まともな神経をしていない本当の悪人なら、聞く耳すら持たないだろう。

「海賊は人助けもするんです。男気があって気前が良くて見た目もかっこいい!弱きを助け悪を挫くその姿に惹かれるんです。それに引き換え山賊はどうです?ボロボロの服を着て、臭くて、数々の乱暴狼藉を働く卑怯な小物でしょう?」

「いや、待て。それは世間一般のイメージであって、実際は海賊にもひどい奴らはいるんじゃないのか?」

 キースの憮然とした顔を見て、うんうんと頷く。
「その通りです。実際は極悪非道な海賊もいるはずなのに、物語でかっこよく描かれている海賊像というものが世間的に広まっていて、いいイメージが強いから海賊は人気者なんです。だから山賊もイメージアップをはかりましょうよ」

 そう、イメージ戦略はとても大事だ。
 レイナード様だって中身は子供っぽくて怖がりなのに、人前では「完璧な王太子殿下」という仮面をかぶっている。そのおかげで「美しさと強さを兼ね備えた素敵な王子様」だと言われて大人気だ。

 わたしも完璧な婚約者像を押し付けられて、そのイメージを損なわないように頑張っていたんですもの。
 彼らだって「山賊は実はいい人たち」という目で見られるようになれば、山道で山賊に襲われる血なまぐさい事件が減るんじゃないかと思うの。

 これが、わたしがあの日からずっと考えていた「山賊対策」だ。

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