円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「だから!騎士団長が人間の子供を食べるわけないでしょう?」

「俺らだってなあ、無差別に人を殺しまくってるわけでもないし、水浴びだってしてるから『臭い』とか勝手なイメージだけで言うな!」

 ここでは食事中に大声を出しても、眉を顰める者はいない。
 わたしたちの言い合いは夕飯まで続き、お互いの認識にかなりの齟齬(そご)があることが確認できた。

 彼らは、沢で気を失っている見ず知らずのわたしを助け、焚火で乾かしてくれて食事まで提供してくれているのだ。
 この時点ですでに、十分な善行だ。

 親しくなれとは言わないけれど、彼らの事情や主張に興味を持って耳を傾けることも必要だと思うわ――あの勉強会でナディアが言った言葉が脳裏に蘇る。
 本当にその通りだ。

 年下の貴族の娘に上から目線で「あなたたちの好感度を上げてさしあげるわ!」なんて言われて、「ありがとうございます、是非お願いします」なんて言う山賊はいないだろう。

 まずは、彼らのことをよく知るところから始めないといけないわね。


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