円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 翌日、わたしは彼らとともに馬とヤギの世話をして、魚を釣り、焚火を囲んで一緒に食事をした。
 血染めのシャツが不気味だとキースに言われて、以前の略奪品の中に入っていたというシャツを借りた。

 崖から落ちて激流に流されたわりに、どこにも怪我をしていなかったのは幸いだ。
 カモちゃんが守ってくれたに違いない。

 低い位置は全て採ってしまって、もう高い位置にしか実が残っていないというヤマモモの話を聞いて、ジェイを踏み台にさせてもらって飛び上がり、ヒョイヒョイと高い枝まで登って行って実を採ると、とても感謝された。

「嬢ちゃん、すげえなあ」
 特にジェイは、とても褒めてくれた。

 ジェイには、わたしと同じぐらいの年の娘がいたらしい。
 彼はもともと城下町で商会を営んでいたんだとか。
 しかし8年前に詐欺に遭い、財産を全て失った挙句に妻と8歳の娘まで借金の形として連れ去られ、自暴自棄になって死のうと決心して山をさまよっているところを山賊たちに拾われたらしい。

 奥様とお嬢さんの名前を教えてもらえれば、今どうしているか調べることも不可能ではないと言ってみたけれど、ジェイは力なく首を横に振った。
「どうせロクなことになっちゃいねえさ。だから……知るのが怖い…」

 ジェイの巨体が急に小さくなったように見えて、胸が痛んだ。
 

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