円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 その後、フェイン侯爵の邸宅から隠し資産や二重帳簿が見つかり領地没収および爵位剥奪の罰を受けた侯爵家だったが、教会の火事に関しては、逆上した侯爵が外から火を放ったとする説と、領民が司祭を殺して内側から火をつけたという説があり、決定的な証拠がないためにフェイン侯爵を放火と殺人の罪には問えなかった。

 現在その領地は国王陛下の直轄領となっていて、二度とそのような痛ましい事件を起こさないようにという戒めとして、焼失した教会の跡地には慰霊碑が建てられている。

 まさか、あの事件の生き残りがいたなんて…。
 それが本当なら、教会の火事の原因をキースは知っているのかもしれない。

 たしかその後、フェイン元侯爵は家門から疎ましがられて見放され僻地でひっそり暮らしていたけれど、3年前に馬車で移動中に山賊に襲われて無残な最期を遂げたと聞いている。

 あれ?
 山賊に襲われて…?
 まさか―――。

「その事件なら、学院でも『領地経営の悪い例』『こんな領主になってはいけません』って習うので、貴族の子供なら誰でも知ってますよう。生き残りがいたんですね」
 わざと明るく馬鹿っぽく、その先の真実になんてこれっぽっちも気づいていませんっ!という体で言ってみたが、元商人の目をごまかせたか否かはわからない。

 ただ、わたしがその事実に気づくことも予想した上でジェイは話してくれたのかもしれないとも思う。

 彼らはもうとっくに「弱きを助け、悪を挫く」を体現してるわけだ。
 人気者になって、人目を気にして悪さをしなくなれば襲われる馬車が減る――そんな打算的な考え方ではなく、彼ら自身がもっと報われて、生活の質が向上していきますようにと強く願った。


< 131 / 182 >

この作品をシェア

pagetop