円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
第13章 レイナードの告白
「あの、レイナード様?わたし、ひとりで座れますから」

 馬車の中はレイナード様とわたしの二人きりで、わたしはなぜかレイナード様の膝の上に乗せられている。
 おまけに、そんなわたしをレイナード様はずっと抱きしめ続けているのだ。

「嫌だ。もうシアと離れたくない。どうせまた逃げる気だろう?」
 拗ねたような表情でわがままを言っているレイナード様は、紺色に染めていた髪を元の綺麗な金髪に戻していた。
 そして、わたしたちが乗っているこの馬車は王室のものだ。

 つまり、変装をやめてレイナード王太子殿下として、婚約者のステーシア・ビルハイムの捜索に加わっていたということだ。

 おとといの捜索には長兄のレオンが、昨日の捜索には父が参加していたらしい。
 今日は早朝から次兄のスタンが参加して、今は自分の馬に騎乗して馬車を先導してくれている。

 レイナード様は、わたしが激流に飲まれた直後から、周囲が危ないからと止めるのも聞かず毎晩遅くまでランタンを持って沢を歩き続けてくれたのだとか。
 わたしときたら、その間、山賊のアジトで楽しく過ごしていたというのに。

 だから、わたしを発見して駆け寄り、抱き着いてきたレイナード様のお顔には、その美貌に似つかわしくないクマがくっきりと浮かんでいたし、顔色も良くなかった。
 山道でわたしを発見した後、馬車を待機させている場所までわたしを横抱きにして連れて行くと言ってきかないレイナード様だったけれど、逆にわたしのほうがレイナード様を担いでお連れしたいと思うほどに疲労が色濃く表れてやつれていたのだ。

 瞬時に大きく飛び退き、「わたしはこの通りとても元気です。怪我もしておりません。そんなわがままをおっしゃるのなら、わたしはこのまま逃げますが?」と仁王立ちになると、ようやく諦めてくれたのだが、この脅しが失敗だった。
 レイナード様は、山道を歩く間も、待機していた医師の診察を受ける間も、そして馬車に乗ってからもこうしてわたしにベッタリ張り付いて離れようとしない。

 俺のせいでこんなことになってごめん。怖かっただろう?痛いところはない?シアが死んでしまったんじゃないかと思って不安だった。助けてくれてありがとう。でもああいう真似は二度としないでくれ。もう離れたくない……とまあ、ずっとそんな言葉を聞きながら今に至る。


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