円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 この馬車はいま、わたしの自宅であるビルハイム伯爵邸へと向かっている。
 わたしは両親に騎士団の体験訓練に参加するとは言わず、新学期に備えて早めに学院に戻ると言っていた。
 事情を知る兄たちからは、バレた場合は自己責任で何とかしろと言われてそれを了承していたけれど、これほどの騒ぎになってしまったらもう「嘘ついてごめんなさい、てへっ」では済まされないだろう。
 
 大目玉は当然で、ヘタすると長期休暇が終わるまでの残り7日間、家から出してもらえないかもしれない。
 だからもう逃げ回るのはそろそろやめて、レイナード様としっかり話をしようと思う。

 激流に流されてすっかり忘れていたけれど、ナディアが海賊とどうとか言っていた気がするし?
 13年前のフェイン侯爵領の暴動事件の証言者を見つけたことや、ジェイの家族の捜索の相談もしたい。

「大丈夫よ、もう逃げないから安心して眠ってちょうだい」

「ねえシア、もう一回名前を呼んで?」

 あらあら、まるで体の大きな子供みたいね。
「レイ、おやすみなさい」

 柔らかい金髪をなでると、レイナード様は満足げにふわりと笑って目を閉じた。

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