円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 そしてこれまたタイミングが悪いことに、そのときに馬車が止まり、自宅の門で待ち構えていたと思われる長兄のレオンが馬車の扉を開けたのだ。
 
 目に飛び込んできた光景に、レオンは瞬く間に気色ばんだ。
 わたしがレイナード様に泣かされていると思ったのだろう。

「貴様っ!妹から離れろっ!!」

 馬車の中に乗り込んできてレイナード様に掴みかかろうとするレオンの顎を、わたしは咄嗟にカモちゃんで蹴り上げた。
 レオンは綺麗な放物線を描きながら吹っ飛び、地面に大の字で倒れたのだった。

 やった!
 ゴリラに勝ったわ!

 先ほどのまでのしんみりした気持ちはあっという間に吹っ飛んで、わたしは一人で馬車から飛び降りると
「レイナード様に乱暴なことしないで!」
とレオンを見下ろして仁王立ちになった。

 これ以上我が家門の心証が悪くなれば、レオンの次期騎士団長就任の道が閉ざされてしまう。
 それではマリアンヌに申し訳が立たない。

 レイナード様!乱暴なゴリラはわたしがこらしめておきましたからっ!

 少し離れた位置に立つ父が無様にひっくり返るレオンを一瞥して「鍛錬が足りんな」とつぶやき、その後ろでは次兄のスタンが大笑いしていたのだった。
 

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