円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「お母様、嘘をついて、心配までかけてごめんなさい」

 鏡越しに今更ながら謝罪すると、母は困ったような顔でため息をつき、そのあとわたしのことを抱きしめた。
「怪我がなくてよかった。お母さんのほうこそ、あなたがレイナード殿下のことで思い悩んでいることを知っていながら何もできなくて申し訳なかったわ。
 大丈夫よ、殿下は心変わりなんてしていらっしゃらないわ。7年前に婚約を申し込んできたときと同じままよ」

「え?わたしとレイナード様の婚約って、こっちから申し込んだわけじゃないの?」
 わたしの首の傷痕が一生残るから責任を取れと婚約を迫ったのだと思っていたんだけど?

「何を言ってるの、ステーシアみたいなおてんば娘に将来の王妃様なんてとても無理ですって何度もお断りしたのに、レイナード殿下が毎日直々に『シア以外の女の子を好きになることなんて、この先も絶対にない』って言ってくるものだから、こちらが根負けしたのよ」

 知らなかった…なにそれ!?

「わたしの首に傷痕が残るから責任を取ってっていうことじゃなかったの?」
「そんなわけないでしょう。その前からすでに婚約の打診は何度もあったのよ」

 それ、もっと早く教えてよ~~っ!

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