円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 母に衝撃的な婚約秘話を暴露された後、父の待つ書斎へと赴いた。

 父にも「迷惑と心配をかけて申し訳ありませんでした」と頭を下げた。

「本来ならば、自らの命を顧みず王太子殿下をお守りしたおまえをビルハイム家の誇りだと褒めたいところなんだが…」
 父はここで言葉を切る。

 あら、褒めてくれていいのよ?

「レイナード殿下は、頑固で面倒くさいお方なんだ」

 ええ、そうよね。
 わたしにベタベタと絡みついて離れないレイナード様の今日の様子はまさにそれだ。

「ご本人が一度こうと決めたことは、絶対に曲げないお方だ。だから昨晩だって、どれほど面倒くさかったか…」
 
 父によれば、丸二日捜索しても手掛かりすらないわたしに関して、もっと下流まで流されているにしても、魔物に連れ去れているにしても、すでに命はないだろう。生存の可能性は、本人が自力で水から上がり山の中で迷子になっている場合と、山賊に連れ去られた場合だ。ただし、山賊に連れ去られている場合は、ひどい目に遭っているかもしれない――そう言われていたらしい。

 それに対してレイナード様は、生きているのなら、どんなひどい目に遭わされていても、どんな状態になっていたとしてもステーシアと結婚する、仮に命を落としていたら、もう自分はこの先誰とも結婚しないと言い放ったようだ。

 あらあら、随分と悲壮感が漂っていたのね。
 その間、わたしは噂の山賊さんたちと楽しく過ごしていたっていうのに!

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