円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「俺に命を狙われてるって何のこと?そんなわけないだろうって思って、つい笑ってしまったよ」

 ここは一旦、話をそらすことにしよう!
「とにかく、コンドルが無事でよかったわ」

 コンドルの名前を出すと、レイナード様は視線を落として笑顔をひっこめた。
「シアは…コンドルくんと仲がいいようだけど…ほら、あのときも彼に抱き着いていただろう?」

 そんな恨めし気な目で見られてもね、あなたがナディアとしていたイチャコラのほうがもっとひどかったわよ?
 それに、あだ名に「くん」をつけるのって、なんだか変よ?

「実はあれ、コンドルの背中にくっついていたグリフォンの羽を取っていただけなのよ。その羽でルシードに魔導具を作ってもらおうかと思って!」

 するとレイナード様は目をすっと細めて、ますます不機嫌になってしまった。
「ルシードくんって確か、シアをエスコートしていたあの黒髪の坊やだよね。研究室で彼と手を握り合っていたり、彼の兄さんともダンスをしたり、男爵家に遊びに行ったりもしたそうだね」

 ちょっと!
 誰よ、レイナード様に妙な報告をしたのは!

「ルシードの手を握っていたのは、指がちぎれかけたことがあるって言われたからよ!ディーノは高速回転で放り投げてやったの。ところが後からディーノがルシードの義理のお兄さんだってわかって、グリマン男爵家まで謝りに行ったのよ?
 そしたら、これ以上わたしのダンスの相手をしたら死ぬかもしれないとか言われてね、二人とももう二度とわたしと踊りたくないんですって!ああ、もうっ!今思い出したらまた腹立ってきたわ」

「つまり、シアのダンスパートナーは俺にしか務まらないってことだよね」
 レイナード様は突然機嫌を直したようだ。
 
 待って!
 なんでわたしが浮気疑惑の弁明のようなことをさせられているわけ?

 レイ、笑っていられるのも今のうちよ。
 食事が終わったら、ナディアとのことを糾弾してやるんだから!
 覚悟しなさいっ!

 鼻息荒くパンにかじりつくわたしを見て、レイナード様はどういうわけか満足げに笑っていたのだった。


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