円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 食事を終えた後、自室のソファで向かい合ってレイナード様からの申し開きを聞いた。

 レイナード様の口から語られたナディアと海賊との恋の話はまるで、かつて図書室で読んだロマンス小説のようで、このまま上手くいきますようにと願わずにはいられない。
 そうとは知らずに嫌な態度をとって、しかもお別れも言わなかったことを申し訳なく思う。

 実はわたしもナディアも、二人とも「悪役令嬢」になりたがっていただなんて、なんて滑稽なのかしら。
 
 でもね!
 話を聞かずに逃げ回っていたわたしにも確かに非はあるかもしれないけれど、ナディアとあんなにイチャコライチャコラしてわたしのことを蔑ろにしておきながら、「恋人同士のフリをしていただけ」と言われて「あら、そうだったのね、よかったわ」なんて言える人格者なんているんだろうか。

「レイはナディアとのことを『花を愛でるのと同じ程度の感情しかなかった』って言うけど、あんなふうに触れてさえもらえていなかったわたしは、お花以下だったってことなんでしょう?」

「えっ!いや、そうじゃなくて…」

 焦るレイナード様の言葉を遮って続ける。
「今回、あなたのことを庇って行方不明になってから急にベタベタし始めたのは、どういう心境の変化なのかしら。死んだと思われてやっと、お花並みになれたってこと?」

 嫌味っぽい言い方になってしまったのは許してほしいわ。
 だってわたし、怒っているんですもの。 

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