円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「ちがう。そうじゃないよ、シア」
 レイナード様は悲し気に眉根を寄せている。

「きみは俺にとっていつだって最上級なんだ。物心ついた時からずっとシアが好きだった。好きすぎて、まぶしすぎて、恥ずかしくて、好きだって言えなかった。それに、大事にしすぎて触れることもできない臆病者だった」 

「でもね…」そう続けてわたしを真っすぐに見つめてくるマリンブルーの瞳に、またもや妙なスイッチが入ったような気配を感じた。

「いつでも言えるから、いつか言おうと思っていたのが間違いだった。当たり前にいつもそばにいられるわけじゃないってことが今回のことでよくわかったんだ。これからは言葉でも態度でもわかりやすくしっかり示していこうと思う。だから覚悟してね」

 ええぇぇぇっ!
 覚悟とは!?

 レイナード様はわたしが戸惑っている間に立ち上がると、わたしの前で片膝をついて跪き、かつて婚約の申し込みをしたときよりも、うんと大きくなった手でわたしの手を握った。

「好きだよ、シア。これからもずっと一緒にいてほしい」

 ずるいわ、そんな懇願するような目で見つめてくるだなんて。

「ひとつお願いがあります」
 そう言うと、レイナード様は「なに?」というように首をかしげた。

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