円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「もしもまた誰かに恋人のフリをしてほしいって頼まれても、もう二度と引き受けないで」

「わかってる。もう二度としないと約束する。たとえ国益のためであっても、もうこりごりだ。次はシアとカインに相談して別の方法を考える。何も言わなくてもシアはわかってくれると己惚(うぬぼ)れていた自分の浅慮が恥ずかしいよ」

「わたし…」
 声が震える。
「レイとナディアが仲良くしているのを見て、怒ったり悲しんだり、みっともなく嫉妬したり、すごく嫌だったんだから!」

 滲んでいく視界の中でレイナード様が立ち上がり、わたしの横に座った。

「そうか、ごめん。でもシアが嫉妬してくれていたなんて、ちょっと嬉しいな。それはつまり、俺のことが好きだってことだよね?」

「そうよ、わたしだってずっと前からレイが大好きだったわ」 

 涙と共に叫ぶように自分の気持ちを吐き出した直後、肩をグイッと引き寄せられて、気づけばレイナード様の腕の中にいた。

「もうこれから先は、シアに辛い思いはさせないと誓うよ。一生をかけてそれを証明してみせる。俺だってずっとずっとシアだけが大好きだったし、それはこれから先も変わらない」
 耳元で甘いささやきが響く。

 どういうわけかわたしは、レイナード様の前では泣き虫になってしまったようだ。 
 レイナード様は、わたしの涙が止まるまで、それはそれは優しく丁寧に背中と髪を撫で続けてくれたのだった。

< 149 / 182 >

この作品をシェア

pagetop