円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「ねえ、額をくっつけ合うのって…」
「ん?これのこと?」
レイナード様は、うれしそうに笑いながら額をくっつけてくる。
近いっ!近すぎますっ!!
「レイはナディアとも、こんなことをしていたの?」
両手でレイナード様の胸を押して、距離を取った。
食事の前に気になっていたことだ。
モヤモヤするぐらいだったら聞いた方がいい。
「さすがにしてない。これは距離が近すぎる」
レイナード様が嘘を言っている様子はない。
だったら、一体どこで…と思ったら、驚くことを言われた。
「今も昔もこれからも、こんなことシアとしかしないよ?」
え?昔?
わたしたち、こんなイチャコラなんてした経験はなかったはずだけど?
「子供の頃のシアは、勢いが良すぎてちょっと痛かったけどね」
レイナード様は、ふふっと笑って再びわたしを抱きしめる。
ああ、それは…ただの頭突きのつもりでした――この雰囲気でそう白状するのはさすがに憚られて、レイナード様の腕の中でおとなしくなってしまうわたしだった。