円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
第14章 激甘注意報
 案の定わたしは新学期が始まるまで父から自宅謹慎を言い渡され、その間、毎日レイナード様がバラの花束とマカロンと、マカロンよりも甘ったるい笑顔を携えて訪問してくれた。

 ナディアの国で買って来たという一粒パールのネックレスをもらった翌日に、さっそくそれを着けて出迎えたときには、周りに侍女や執事がいるというのにいきなりわたしを抱きしめて
「あれこれ迷ったけど、普段使いできるように控えめなデザインのものを選んで正解だった。よく似合ってるよ、シア」
と嬉しそうに言いながら放してくれないものだから、また執事が遠慮がちな咳ばらいをしなくてはならなかった。

 ウブで生真面目な人ほど(たが)が外れるととんでもないことになると言うけど、レイナード様はまさにそれかもしれない。


 カインとリリーが二人そろって訪問してくれたときも、わたしに触れずにはいられない様子のレイナード様の変わりようを見て、二人が唖然としている様子がおかしかった。

「なんかもう、甘すぎて俺、虫歯になりそう…ていうか、奥歯が痛む気がしてきた」
「それ、頭痛の間違いじゃない?」

 カインとリリーの息の合った掛け合いを見て、この二人に直接的な接点があっただろうかと首をかしげていたら、なんと実は婚約者同士なのだと言われて仰天してしまった。
 家柄的に婚約者がいても全くおかしくはないのだけれど、そんな素振りを全く見せていなかったというのに。

 レイナード様は、カインに婚約者がいることは知っていたけど、それがわたしの親友のリリーだということは知らなかったらしい。

「ほらね、レイナードはステーシアちゃん以外の女の子のことなんて全く興味がないんだよ。そのへんに花がいっぱい咲いてるなーぐらいにしか思ってないから、浮気の心配なんかしなくていいよ」

「でもステーシアだって似たようなものよ。カインのこと躊躇なく踏み台にしたんですってね!」

 え?踏み台とは??
 
 よく意味が分からずに首をかしげるわたしの様子を見て、カインが「ああ、やっぱり気づいてなかったか」と苦笑する。
「コンドルを助けるために、ステーシアちゃんが木に登っただろう?あのとき踏み台になったのが俺」

 ええぇぇぇぇっ!?

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