円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 長期休暇が明けて、わたしたちは学年がひとつ上がった。

 中庭のベンチは相変わらずレイナード様の指定席のようになっているけれど、横に座るのはナディアではなく、わたしだ。

 誰が見ていようとお構いなしに、わたしの手を握ったり、肩を引き寄せたりと遠慮のない愛情表現を見せるレイナード様を、学院の生徒たちは戸惑いながら遠巻きにして見ている。

「ナディアとは火遊びで、元の鞘に収まったってことか」
「ナディアに捨てられて、仕方なく必死にステーシア嬢の機嫌を取っているんじゃないのか」
「議会で、ナディアのことをただの友人と言ったらしいよ」
「商談を成功させるために殿下がナディアをたぶらかしたっていう噂も…」

 とまあ、レイナード様は散々な言われようで、男性としての評価は地に落ちたと言っても過言ではない。

 それでも本人はそんな評価はどこ吹く風で、「いいんだ、俺の本心はシアだけが知っていてくれたらそれでいい」とまた甘ったるい微笑みを見せるのだった。

 その一方で、わたしに対する周囲の評価は「すべてを許すステーシア嬢は太っ腹!」と急上昇してしまい、それはそれで何だか居心地が悪い。

 わたしは悪役令嬢風のどぎついメイクや悪趣味な重たいドレスをやめて、今はナチュラルでシンプルにまとめている。
 レイナード様からもらった一粒パールのネックレスが綺麗に見えるように首を覆うのもやめた。
 そして足元は、いつでもレイナード様をお守りできるように、常にカモちゃんを履いている。

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