円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「相変わらず甘々のイチャコラだなー」
 そう言ってわたしたちの座るベンチまでやって来たのはカインだった。

「依頼されていたやつ、調べがついたよ」
 
 自宅謹慎中にカインとリリーが訪問してくれたときに、カインに調べて欲しいことがあるとお願いしていたのだ。

 元フェイン侯爵領の領民の中に、キースとルシードという名前の兄弟がいなかったか。
 8年前に詐欺にあって倒産した城下町の商会の家族の行方を知りたい。
 ほかにも数名、アジトにいた山賊たちから行方を調べて欲しいと言われた人物の名前や略歴を言って、追えるだけ追って欲しいという依頼だった。

 一度名前を聞いただけでそれを全て覚えられたのは、お妃教育の賜物だ。
 カインはそれを「すごいね」と感心してくれたけど、たぶんレイナード様だってそういう教育を受けていると思う。
 それに、あれから10日足らずで全て調べ上げたカインのほうがすごすぎる! 


 以前、勉強会に使っていた空き教室で、レイナード様と共にカインの報告を聞いた。

「フェイン侯爵領にたしかに13年前、その名前の兄弟がいたよ。キース・マルダが11歳、ルシード・マルダはまだ1歳の赤ん坊だった。ともに暴動事件のときに教会の中で焼死したことになっている」

 13年前に1歳だったってことは、ルシードはやっぱり16歳ではなくて14歳なのね。
 幼いと思ったわ。 

「マルダ兄弟は髪も目も黒かったらしい。容姿も合致しているし、魔導具科にいるルシード・グリマンがこのルシード・マルダの可能性は極めて高いけど、彼には当時の記憶が一切ないから証人にはならない。山賊のリーダーをしているっていうお兄さんのキースから話を聞かないことには、この件はどうにもできないね」

 カインの言う通りだ。
 
 キースはすでに自分でフェイン元侯爵に制裁を加えている。
 これ以上蒸し返したらその件でキースの立場が…ん?

「ねえ、山賊が証人として出廷したらどうなるの?」
 
 レイナード様を見ると、困ったような顔で答えてくれた。
「出廷してきた時点で騎士団に取り押さえられるだろうね」

 いやあぁぁぁっ!

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