円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「ジェイさんっていうのは、本名がジェイク・ホワイトでいいのかな?8年前に先行投資詐欺が流行ったことがあって、自営業者が倒産したり、貴族にも騙されて大損している家門がいくつかあるんだ。
 当時、ひとり娘が8歳で城下町で商会を営んでいたっていう条件に当てはまるのがこのジェイク・ホワイトひとりだけで、彼の妻と娘はたしかに借金の形として連れていかれている」

 ごくりと唾をのんだ。
「その奥様と娘さんは、いまどうしているかわかった?」

 カインはにっこり笑う。
「人身売買は禁止されているんだけどね、まあそれに近い感じで伴侶に先立たれて身寄りのない金持ちの老人の元に売られたんだ。ただ、その老人が意外なことにとても紳士で、親子を気の毒がってくれて家族同然のいい暮らしをさせているものの、手籠めにはしていないらしい」

 よかった!
 ジェイに伝えたい。

 そのほかの人物もみんな、悪い人生は送っていないことがわかった。
 騎士団の山賊一掃作戦で捕えられた人たちは、更生施設で職業訓練を受け、今では普通に城下町で働いている人がほとんどで、子供の場合はルシードのように孤児院に預けられた後、養子縁組が決まったり、そのまま孤児院で大きくなって独り立ちしている子もいるらしい。
 
 お父様が鬼畜ではないことも証明されたわ!

 短期間でここまで調べてくれたカインに感謝を述べると、リリーも手伝ってくれたからと惚気られてしまった。
 リリーには別のお願いもしているというのに、二人ともなんて仕事が早いのかしら。

 あとはこれを、どう彼らに伝えたらいいんだろうか。
 アジトの場所を知られたくないと言っている彼らの元にのこのこ赴くわけにもいかないし…。
 

 この数週間後、どうにかして彼らに伝えたいというわたしの願いは、思いもよらない形で実現した。

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