円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「空を飛ぶのって実はすごく難しくて、魔導具科にとって飛行機の製作は悲願なんです」

 長年それを完成させたくて歴代の卒業生たちもあれこれ知恵を絞りながら試みているものの、いまだに成功していないという話をルシードが聞かせてくれた。

「去年、あと少しのところまでいったんだけどなー」
 悔しそうにディーノが言う。

 テスト飛行までこぎつけたのだが、風魔法の能力の高い生徒を乗り手にして学院の屋上から飛んでみたところ、ただの垂直落下になってしまい、あわや大事故になるところだったんだとか。
 どうにかギリギリで風を起こして地面に叩きつけられるのを防いだその乗り手の生徒は、もう二度と御免だと言って魔法科のほうに転科してしまったらしい。

 思うんだけど、魔導具科って実は相当な脳筋じゃないとやっていけないんじゃないかしら。

「このコンドルの風切り羽はとても綺麗だから、人間を飛ばすのは無理でも軽い物を乗せて運ぶぐらいのものは作れるかもしれません」

「待って!」
 わたしはドヤ顔でグリフォンの羽を差し出した。

「さらにグリフォンの羽があればどう?人間でも飛べるんじゃないかしら」

 グリフォン!?と驚いて、ルシードとディーノが飛びついてきたけれど、あまりいい状態ではないことにすぐに気づいて顔を曇らせた。

 これだと、わたしとカモちゃんのように、よほどコンドルかグリフォンとの親和性が高い乗り手でないと無理だと思う…と説明するルシードにいいことを教えてあげた。

「大丈夫よ!だって、コンドルはコンドルって鑑定された男よ?それにグリフォンと一緒に飛んだのよ。だから飛べるに決まってるわ!」

「いやいやいや、あれ『飛んだ』って言わねーだろ!こえーよ!」
 
 ちょっと!コンドルのくせに飛ぶのが怖いだなんて意気地なしねえ。

「わかったわ!じゃあ、このわたくしが…」
 乗り手になって飛んでみせる!と言いたかったのに、途中でディーノに遮られた。

「だめだ。ステーシア・ビルハイムには金輪際、魔導具を渡すなって学院長に言われたんだ。言いつけを破ったら俺らが退学処分になる」

 えぇぇっ!?どこからの圧力よ!
 いやあぁぁぁぁっ!


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