円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「とまあそんなわけでね、わたし騎士団からも魔導具科からも出禁を食らってしまったのよ」
その夜、寄宿舎で同室のリリーとマーガレットに愚痴を聞いてもらった。
「それでね、わたしどうしたらいいの!って言ったら、レイナード様が『どうもしなくていいよ、シアはそのまんまで嫁いできてくれたらいいんだからね』って言うのよ?」
そう言って頬を膨らませたら、二人同時に「それ、惚気?」と言われてしまった。
わたしは大真面目に、レイナード様をお守りするために結婚前にもっと強くなっておきたいっていう話をしているのに、どこがどう惚気ているっていうのかしら。
キョトンとしているわたしを見てリリーが笑う。
「ステーシアは相変わらず天然で脳筋で可愛いわね。だからこそ、小説のモデルとして最適なのよね」
実家にお見舞いに来てくれた時に、わたしはリリーにあるお願いをしていた。
それは、リリーが執筆したという小説のヒロインが婚約破棄された後に出会う男性を、黒髪の山賊に変更してもらえないかという無茶なリクエストだったのだけれど、リリーは「どうってことないわ。確かにそのほうがおもしろそうね!」と快諾してくれたのだ。
リリーの家門のダリル家は文筆を生業にしている親戚も多くいて、そのツテで原稿を見せたところあれよあれよという間に、この小説が出版されることになった。
留学生にのめり込んで婚約破棄した王子は「ざまあ」で終わり、ヒロインの伯爵令嬢は山賊と幸せになるというストーリー展開に、レイナード様は不満を漏らし続けていた。
そのクレームを封じ込めたのはリリーだった。
「これが売れたら、次の小説は王子が心を改めてヒロインを振り向かせるっていうストーリーにするつもりだから、人気が出るようにレイナードも王妃様のサロンの奥様方に頑張って売り込んでちょうだい」
この提案に乗ったレイナード様は、リリアン・Dというペンネームの新人作家の処女作である『婚約破棄された悪役令嬢は山賊に恋をする』を、知り合いに手当たり次第に売り込む気まんまんだ。
リリー、あなたってすごいわね。
愚痴を聞いてもらっていたはずが、いつの間にかリリーの小説の話になり、「出版されたら三人でお祝いしましょうね」と締めくくったところで消灯時間となった。
ビルハイム家の執事が火急の用件でわたしを迎えに来たのは、その翌朝のことだった――。
その夜、寄宿舎で同室のリリーとマーガレットに愚痴を聞いてもらった。
「それでね、わたしどうしたらいいの!って言ったら、レイナード様が『どうもしなくていいよ、シアはそのまんまで嫁いできてくれたらいいんだからね』って言うのよ?」
そう言って頬を膨らませたら、二人同時に「それ、惚気?」と言われてしまった。
わたしは大真面目に、レイナード様をお守りするために結婚前にもっと強くなっておきたいっていう話をしているのに、どこがどう惚気ているっていうのかしら。
キョトンとしているわたしを見てリリーが笑う。
「ステーシアは相変わらず天然で脳筋で可愛いわね。だからこそ、小説のモデルとして最適なのよね」
実家にお見舞いに来てくれた時に、わたしはリリーにあるお願いをしていた。
それは、リリーが執筆したという小説のヒロインが婚約破棄された後に出会う男性を、黒髪の山賊に変更してもらえないかという無茶なリクエストだったのだけれど、リリーは「どうってことないわ。確かにそのほうがおもしろそうね!」と快諾してくれたのだ。
リリーの家門のダリル家は文筆を生業にしている親戚も多くいて、そのツテで原稿を見せたところあれよあれよという間に、この小説が出版されることになった。
留学生にのめり込んで婚約破棄した王子は「ざまあ」で終わり、ヒロインの伯爵令嬢は山賊と幸せになるというストーリー展開に、レイナード様は不満を漏らし続けていた。
そのクレームを封じ込めたのはリリーだった。
「これが売れたら、次の小説は王子が心を改めてヒロインを振り向かせるっていうストーリーにするつもりだから、人気が出るようにレイナードも王妃様のサロンの奥様方に頑張って売り込んでちょうだい」
この提案に乗ったレイナード様は、リリアン・Dというペンネームの新人作家の処女作である『婚約破棄された悪役令嬢は山賊に恋をする』を、知り合いに手当たり次第に売り込む気まんまんだ。
リリー、あなたってすごいわね。
愚痴を聞いてもらっていたはずが、いつの間にかリリーの小説の話になり、「出版されたら三人でお祝いしましょうね」と締めくくったところで消灯時間となった。
ビルハイム家の執事が火急の用件でわたしを迎えに来たのは、その翌朝のことだった――。