円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 朝の支度をしているときに寄宿舎の寮母さんがバタバタとやって来て、実家の執事が来ていると知らされた。
 
 家族に何かあったのかしら?
 慌てるほどに何も手につかなくて、梳かしている途中だった寝ぐせのついた髪をマーガレットが手早く結んでくれた。

 そして執事の待つ控室に急行すると、思わぬことを告げられたのだ。
「昨晩、ジェイと名乗る山賊風の男が、怪我を負って意識のない若い男を担いでお屋敷を訪ねてきました。ステーシアお嬢様に、困ったことがあれば頼ってほしいと言われたからと言うので、敷地内の離れの方に滞在してもらっております。若い男の方は朝になっても意識が戻らず、今も医師の治療を受けているところです。どうなさいますか」

「若い男って…」
 心臓が早鐘を打っている。

「ジェイ様は彼のことを『オカシラ』と呼んでおります」

 ―――!やっぱり!
 思わず息をのんだ。

 キースが怪我で意識不明?どうしよう……。

 どうなさいますか、と再度執事に問われて我に返る。
 ここでオロオロしている場合ではない。

「その方々は確かにわたしの命の恩人です。言いつけを守ってくれてありがとう。家に戻ります」

 一旦部屋に戻ってリリーとマーガレットに事情を説明し、レイナード様への言付けを頼んで急いで馬車に乗った。

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